母子ともに無事がいい
「出産したときは、母子ともに無事がいい」
お腹の子供の話をするとき、旦那さんがよく口にする言葉だ。
二人目を出産する時、ちょっとしたトラブルがあって、旦那さんはその時、私になにかあったらどうしようと思い、怖くなったらしい。
私は、「そうだねえ」と答えながら、でも、と続けた。
「もし、私に何かあったとしても、赤ちゃんだけは助けて欲しい」
いやいや、と旦那さんが言う。
「もし、そうなったら、残された子供達はどうなるんだ。子供を三人、ひとりで育てるのは大変だぞ。それに、そもそも、僕も子供達も悲しむ」
だから、母子共に無事がいいと繰り返す。
確かにそうなんだけどね。私だって、これからの子供ちゃん達の成長を楽しみにしているから、まだまだ生きる気満々だよ。
ただ、どうしてなのだか、そう思ってしまうのだ。これは、母性本能からだろうか、それとも、ただの感傷か。
ちょっと違う気がして考える。
多分、お腹の中で日に日に成長していることを、私が一番よく知っているから。お腹の中にずっといて、お腹の中しか知らないこの子に、一目でも外の世界を見せたいのだ。
そう思ったら、可笑しくて、少し笑ってしまった。
この世界が大嫌いで、こんな世界で生きたくないと泣いていた、かつての自分。
旦那さんと出逢って、夫婦になって、子供が生まれて…。
いつの間にか、会わせたい人がいて、連れていきたい場所ができていた。
不思議だ。
気付かない間にまた少しずつ、この世界を好きになっている。
最近、ますます存在感を増してきたお腹の子供にそっと話しかける。
あなたに見せたいものが沢山あるの。
でもそれは、やっぱり、みんなで一緒に見たいねえ。
『母子共に無事がいい』
旦那さんが何度も繰り返すその言葉を、しっかりと胸に刻み込んだ。