悩めるママの子育て徒然日記

30代主婦 三児の母 趣味は料理、散歩、読書 旦那さんからは『悩むことが趣味』と言われている

不思議な記憶

「お腹の中のことを覚えている子っているみたいよ。だから、子供が少し大きくなったら、きいてみたら」

 昔、そのようなことを叔母に言われた。

 私には、残念ながら、そんな記憶はない。けれど、もし、子供ちゃん達が持っているとしたら、それはそれで面白そうだと思ったから、なんとなくその話を頭の片隅に残しておいた。そして、子供ちゃん達がある程度お話しできるようになった頃、その話を思い出し、聞いてみた。

「ママのお腹の中にいた時のこと、覚えてる?」

 二人とも、「覚えていない」と言った。期待はしていなかったから、まあ、そんなものだよね、と思って終わった。

 三人目の子がお腹に宿り、そのことを子供ちゃん達に話した。それからしばらくしたある日、上の子ちゃんが急に不思議なことを話し始めた。

「私、お腹にいる前は、雲の上にいたの」

 いきなりのことだから、少し戸惑う。幼稚園で、先生からそのような話の絵本でも読んでもらったのだろうか。

 とりえあず、「へえー」と相づちを打ったら、上の子ちゃんは更に話を続けた。

「雲の上にはいっぱーい赤ちゃんがいて、私はそこで下の子ちゃんと会ったの」

とっても仲良しになって、お誕生日のお話もして。近いから、よかったねって。

 上の子ちゃんは嬉しそうに話す。私はただ、うんうんと頷きながら聞いている。

「それでね、ある日、雲の下を見たの。雲の下には、お母さんが沢山いて、どのお母さんにしようかなって探したの。そしたら、ママを見つけて、あのママかわいいって思って、ママに決めたの」

「そ、そうなの」

 とてもじゃないけれど、自分のことが可愛いとは思えないし、なんだか、ちょっと、罪悪感みたいなものが生まれて、私は、そこでぼそりと呟く。

「もっと優しそうなお母さん、いっぱいいただろうに・・・」

 うん?と上の子ちゃんが怪訝な顔をして、私を見上げながら首を傾げる。私は慌てて、「なんでもないよ」と言って、先を促す。

「それで、ママのお腹の中に入ったの。でも、生まれてくるときに、下の子ちゃんがいないってことに気付いて、お外に出るのやだって思ったの」

 そうだよね。出産のとき、もう少しで出てきそうだったのに、急に出てこなくなって、「このままだと帝王切開になります」って、先生から言われたわ。確か、この話は上の子ちゃんにしたことあった気がするけど、そういう理由だったのね。

「だから、下の子ちゃんが生まれてきたときは、ようやく会えてよかったーって、とっても嬉しかったんだよ」

 うん。下の子ちゃんが生まれた時、すっごく興味津々だったもんね。柵の隙間から、つんつん指で顔を突いたり、ベッドによじ登って中に入ろうとしたり。ママ、毎日、何かあったらどうしようって、あなたから目が離せなかったよ。

 せっかくだから、お腹にいる子のことも聞いてみた。

「今、お腹にいる赤ちゃんには会えた?」

 上の子ちゃんは横に首を振った。

「ううん。ずっと後のことだもん。多分、あの時はいなかった」

 そうか、残念、と思う。

 それにしても、子供は親を選んで生まれてくるのだろうか。私はそうは思っていないから、正直、半信半疑だ。

 でも、子供の頃、母が大好きだった記憶は今でもはっきりと残っていて、だから、ちょっとだけ信じてみたくもある。

 ぼんやりとそんなことを考えていたら、上の子ちゃんがにっこりと笑ってこう言った。

「私は、ママを幸せにするために生まれてきたの。ママ、私が生まれてきてくれて、嬉しい?」

 恥ずかしげもなく、無邪気にまっすぐ聞いてくる、そんな我が子が愛おしい。

「そりゃあ、当然。だって、ママ、早く子供欲しかったもの。だから、上の子ちゃんがお腹の中にいるって知ったときは、嬉しくて嬉しくて仕方なかったよ」 

 子供というのは、本当に稀有な存在だと思う。どんな親でも「大好き、大好き」と無条件に愛してくれる。

 上の子ちゃんがちょっと照れ臭そうに、でも、嬉しそうに笑う。

 そんな上の子ちゃんの顔を眺めながら、

『あなたが向けてくれるその笑顔を、いつまでも守り続けられる親でいられますように』

そう、心の中で静かに祈ったのだった。