悩めるママの子育て徒然日記

30代主婦 三児の母 趣味は料理、散歩、読書 旦那さんからは『悩むことが趣味』と言われている

私と上の子ちゃんの食戦争

 下の子ちゃんの幼稚園が休園になってしまった。先生方の中の何名かがコロナに感染してしまったためだ。このご時世、仕方のないこととはいえ、下の子ちゃんは連日、幼稚園に行けなくてしょんぼり。

 そんな下の子ちゃんが、昨晩、私にぼそっと言ってきた。

「おべんとうが食べたい」

 私は少し悩む。

 毎日、私は旦那さんのお弁当を作っている。なので、下の子ちゃんが家でお昼を食べる場合、旦那さんのお弁当の中身と同じ物を出している。ただ、それをお弁当箱ではなく、お皿に盛っている。だから、手間と言うほどの手間ではない。

 だけど、やっぱり、朝のあの忙しい時間にお弁当箱に詰めるのはちょっと面倒臭い。

「お弁当箱に詰めて欲しいの?」

「うん」

「どうしても?」

「うん」

 下の子ちゃんは引き下がらない。

 ふと、もし、明日、幼稚園がやっていたら、お弁当だったということを思い出す。

 大好きな幼稚園にも行けないし、まあ、しょうがないか、と、お弁当を作ることにする。

 

 それにしても、我が子ちゃん達はなぜかお弁当が好きだ。

 上の子ちゃんもそうだった。お弁当にするまで、なかなかご飯を食べてくれなかった。

 

 上の子ちゃんは、もともと食べることにあまり興味がなかった。離乳食を始めた時も、食べさせようとすると、ぷいっと横を向く。まるで、あっち向いてホイッの遊びをしているかのように。ようやく口に入れても、べっと吐き出す。だから、離乳食がなかなか進まない。

 三回食ともなると、段々、食べさせることがストレスになってきた。一回一回食べさせるのに、時間がとてもかかるのだ。しかも、一日三回!

 一日に三回というのは回数だけ見ると少ないようで、実際にやってみると意外に多い。気づけば、一日という時間が「食べさせる」という行為だけであっという間に終わっていく。 

 一度、旦那さんが上の子ちゃんに朝食を食べさせてくれたことがあった。上の子ちゃんはいつものようにあっち向いてホイッを繰り返す。旦那さんも負けじと上の子ちゃんの前にスプーンを突き出す。意地と意地の張り合い。かかった時間は二時間以上。ようやく、お皿の上が空っぽになったとき、もうお昼になっていた。

 こんなこともあった。離乳食の時は毎食、三種類の野菜をつぶして出していた。その日はあまり野菜がなくて、朝と昼に出す野菜が二種類被ってしまった。上の子ちゃんに言葉が通じているかは分からないけれど、一応、お昼ご飯の時に「今日は朝と二つお野菜が被ってごめんね」と謝って、上の子ちゃんの前にお皿を置いた。上の子ちゃんはお皿の中を一瞥するや否や、そのお皿をぽいっと放り投げた。宙に浮いたお皿はひっくり返り、そのまま床にカタンと落ちた。私は思わず叫んでいた。

 大人と同じようなものが食べられるようになってきても、相変わらず食べなかった。私が本当に美味しくできたと思ったものは、全部食べてくれる。けれど、まあまあかな、くらいのものはほんの数口で食べるのを止めてしまう。かといって、前に完食してくれたものを作ってもまた食べてくれるとは限らない。

 段々、毎食考えるのが面倒になって、お昼は野菜たっぷりのお味噌汁ご飯にしたら、そのうち、全くお味噌汁を受け付けなくなった。仕方なく、チャーハンや八宝菜などご飯ものにしたら、白米自体ほとんど食べなくなってしまった。パスタにしてもうどんにしても、一回目はそこそこ食べても、それがまた三日後に出されるなど、ちょこちょこ継続すると、全く食べなくなる。もう、何を食べさせて良いのか全く分からない。どうしてなのか聞いても、教えてくれない。

 私はどんどん追い込まれていった。

 上の子ちゃんがもうすぐ幼稚園に入るという頃、私は初めて上の子ちゃんにお弁当を作った。

 上の子ちゃんは環境の変化に弱く、慣れるまでに時間が掛かる子だった。幼稚園に行くようになれば、それこそ、新しいことだらけで戸惑うことは目に見えていた。その中で、何か少しでも慣れておくようなことをしてあげたかった。

 上の子ちゃんの行く幼稚園は週に二回、お弁当の日があった。なので、幼稚園に持っていくお弁当箱にご飯やおかずを詰めて、食べさせようと思ったのだ。

「今日のお昼ご飯だよ」

 そう言って、初めてお弁当箱を渡した時、上の子ちゃんはきょとんとしていた。けれど、お弁当箱の蓋を開けた瞬間、ぱあっと顔が輝いた。

「お野菜がいっぱいある」

 今まで見たことのない上の子ちゃんの反応に、私は驚いた。

 その日、上の子ちゃんは初めてお昼ご飯を残さず食べた。

 それから、毎日、お弁当をせがまれるようになった。私としては、慣れてくれればいいくらいのつもりだったので、数回作ったらやめようと思っていた。

 けれど、お弁当を作るとそれなりに残さず食べてくれるのだ。

 だから、やめるにやめられず、幼稚園が始まるまで、毎日、作ることになってしまった。

 そして、お弁当を作っているうちに、なぜ、上の子ちゃんが食べてくれないのかが分かった。

 上の子ちゃんは飽き性で、丼物やパスタなど、一種類だけというのは苦手なのだ。つまり、少量のおかずを沢山並べれば、だいたい食べてくれる。

 それに気づいた私は、毎食、5~6種類のおかずを必ず作るようにした。毎回、それだけ用意するのは大変だけれど、全く食べてくれないときに比べればうんとマシだったのだ。

 こんな話がある。上の子ちゃんが幼稚園に入ってしばらくのこと。ふと、幼稚園で出るお給食のことが気になった。

「ねえ、お給食って全部食べてるの?」

「うん。全部、食べてるよ」

「そっか」

 驚くと同時に、少しだけ悔しかった。私の作ったお弁当は、時々残されていたから。やっぱり、お弁当を専門に作っているところは、子供がよく食べてくれるものを知っているのだなと感心した。

 ある日、幼稚園で個人懇談があった。子供達の幼稚園での様子を先生から聞くのだ。

 お給食の話になったとき、私は「上の子ちゃんから、お給食は残さず食べているって聞いています」と得意げに言ったら、先生が怪訝な顔をした。

「ちょっと待ってくださいね」

 先生が手元にあったノートを調べ始めた。子供たちのご飯のことまで記録してあるのかと驚いたけれど、その後の先生の話にもっと驚いた。

「上の子ちゃん、お給食は大体残しています」

「えっ」

 上の子ちゃんはどうして、あんなことを言ったのだろう。私は困惑する。

 すると、先生が何か閃いたように「もしかして」と前置きして、「不思議なんですけれど、上の子ちゃん、必ず最初にトレイに乗っているおかずを全部一口ずつ齧るんです。多分、食べられそうなものを一口ずつ味見して判断しているんですね」と言った。

 なるほど、上の子ちゃんの言う『全部食べてる』ってそういう意味だったのか、と納得した。

 

 そんなこんなで、なかなか食べさせることが大変だった上の子ちゃん。

 今はどうかと言うと、毎日しっかり食べてくれている。小学校のお給食も、本人曰く、残さず頑張って食べているそう。

 でも、ここまで来るのに、なかなか大変な道のりだったから。

「いつか、君も子供を育てる時、苦労するよ」

 そう言ったら、「そしたら、ママに作ってもらうからいい」と、しっかり言い返してきた。

 できれば、ママ、もう勘弁願いたいです。

 でも、そうやって、成長していってくれるから、救われる。

 また頑張ろうと思える。

 そして、いつしかこうやって、懐かしい昔話になっていく。

 私と上の子ちゃんの食戦争。

 長々と読んでいただき、ありがとうございました。