悩めるママの子育て徒然日記

30代主婦 三児の母 趣味は料理、散歩、読書 旦那さんからは『悩むことが趣味』と言われている

伝える

 最近、気になっていることがある。

 下の子ちゃんを褒める度、上の子ちゃんが「下の子ちゃんは、いいなあ」と呟くのだ。

 よくよく思い返してみると、確かに上の子ちゃんよりも下の子ちゃんを褒めている回数の方が多い。

 そして、上の子ちゃんはどちらかと言うと、叱っている回数が多いのだ。

 四月に入ってからは、それが顕著になってきている。

 というのは、上の子ちゃんも下の子ちゃんも新生活に入ったからだ。

 小学校に入ってからは、上の子ちゃんは家を出る時間が早くなった。

 でも、なかなか行く準備が追いつかなくて、親も必死に手伝いながら集合時間ぎりぎりで家を飛び出していく。

 そして、家に帰ってからも、次の日の準備をしたり、宿題をしたりと新しくやることが増えた。

 それらの生活にすぐ馴染めればいいのだが、上の子ちゃんは慣れるまでに時間が掛かってしまう。

 その結果、「早くしなさい!」とか「もう終わったの?」とか上の子ちゃんを追い立てるような声掛けが増えてしまった。

 一方、下の子ちゃんも新生活が始まったわけだが、もともと上の子ちゃんの生活リズムが身についているため、朝はスムーズに起きられるし、行く準備にしても上の子ちゃんがやっていたことを見ているから、先回りして動いてくれる。

 結果、「もうできたの」とか「えらいね」とか褒める言葉が多くなったのだ。

 なるべく、どちらにも、同じように接するようにしようと心がけていても、実際の所、性格とか兄弟の上下の環境の違いは大きくて、今更ながら、難しいなあと思ってしまう。

 さてさて、どうしたものだろう。

 子供ちゃん達を慌ただしく送り出してから、そのことについて、じっくりと腰を据えて考えてみる。

 上の子ちゃんだって、例えば、朝はちゃんと起きられるようになってきたし、家と学校の間を毎日、大きなランドセルを背負って歩いているし、学校の準備や宿題だって(私に注意されることはあるけれど)一応は自分でやっているわけで、幼稚園の頃に比べれば格段に成長しているのだ。

 ただ、今の現状、まだ追いついていない部分が色々とあって、私はどうしてもその、出来ていないことに目が行きがちになっている。

 これでは、上の子ちゃんだって、拗ねてしまうよね・・・。

 ふうっと大きなため息が出てしまう。

 

 私自身、母に褒められた記憶はあまりない。

 褒められたくて頑張っても、いつも、できるのは当たり前で、出来ないことは怒られた。

 私、頑張ったんだよ。

 よくできたねって褒めてよ。

 頑張ったねって抱きしめてよ。

 いつも、そう言いたい気持ちを押し殺していた。

 多分、言ったところで母には通じないのだろうなって、諦めていたのだと思う。

 上の子ちゃんにとって私がどれくらいの存在かは、正直なところ分からない。

 けれど、少なくとも、私にとって母親という存在は偉大で、だからこそ、自分を褒めて欲しい、抱きしめて欲しい、という気持ちは痛いほど分かっているはずだった。

 なのに、反対の立場になった今、日々の忙しさにかまけて、そういう気持ちを汲み取ることを疎かにしていた気がする。

 

 夜、子供ちゃん達のいる寝室へ行く。

 上の子ちゃんはまだ、起きていて、お布団の上でごろごろとしている。

「毎日、歩いて学校へ行けるようになって、偉いね」

 上の子ちゃんは静かに聞いている。

「朝、早く起きられるようになったね」

「いつも、下の子ちゃんの面倒を見てくれて、ありがとうね」

 上の子ちゃんが私の方に手を伸ばす。

 私が上の子ちゃんの手を握ると、私の手を引っ張ってぎゅっと自分の頬に寄せる。

 上の子ちゃんは不器用な子だ。

 これでも、一生懸命甘えている。

「ママは怒るけれど、でも、ママのこと大好きだからね」

 上の子ちゃんが言う。

「ママも怒っちゃうけれど、上の子ちゃんのこと、大好きよ」

 ぎゅっと抱きしめる。

 上の子ちゃんが嬉しそうな顔をする。

 背後から、下の子ちゃんが「ママ、こっちも。こっちも」とせがむ。

「はい、はい」と答えて、頭を撫でると、下の子ちゃんも満足げな顔をした。

 どの子も大好き。どの子も、大事。

 でも、想っているだけでは伝わらないから。

 ちゃんと意識して、言葉で伝えていくようにしないとな、と反省する。

 

 朝、上の子ちゃんが給食時に使う箸をランドセルにいれていないことに気付く。

 食卓の上には、今日、提出するはずのプリントが置いてある。

 昨日、寝る前に忘れ物がないかもう一度調べなさいって言ったのに・・・。

 朝から、私のお小言が始まってしまう。

「もう、時間だよ。早く出る準備して!」

 トイレに籠っている上の子ちゃんを追い立てる。

 早く。早く。

 ランドセルを背負わせて、水筒を持たせて、帽子を被せて・・・。

 集合場所までついていく。

 集合場所に行く途中で、同じ班の子たちと会う。

 みんな、上の子ちゃんには気づいていない。

 上の子ちゃんは大きく息を吸い込んで「おはようございます!」と言う。

 気づいた子たちが、「おはよう!」と返してくれる。

 しっかり、挨拶できたね。えらい、えらい。

 

 家に帰ってきたら、上の子ちゃんにちゃんと伝えよう。

 大きな声で、自分からあいさつが出来て偉かったね!

 今日も学校お疲れ様!

 それから、思いっきりぎゅっと、上の子ちゃんを抱きしめよう。

 まだ小さくて、ランドセルに隠れてしまう小さな背中を見送りながら、そう思ったのだった。