成長速度
下の子ちゃんは幼稚園に入る前、一時期、トイレに行っていた。
けれど、冬に入ってから、『寒いのが嫌だ』という理由でトイレへ行かなくなった。
なので、上の子ちゃんからはよく、「幼稚園さんになってもトイレに行けないと、先生に怒られるよ」と言われていた。
ただ、実際のところ、上の子ちゃんは幼稚園に入ってもしばらくの間、トイレに行けなかった。
だから、上の子ちゃんがそういう度、「上の子ちゃんも、トイレに行けたのは年中さんからだよ」と、付け加えていた。
幼稚園に入ってから、下の子ちゃんはトイレに行くようになった。
なので、昼間はパンツを履き、寝ている間だけ、夜用のオムツにしている。
ただ、ここ最近、朝起きた時に夜用のオムツが濡れなくなった。
しかも、朝起きると、すぐ、トイレに行く。
良い傾向だ。
気づけば、ここ数日間、この状態が続いているので、「すごいね!」と下の子ちゃんを褒めた。
すかさず、上の子ちゃんが「何が?」と尋ねてくる。
「実はね・・・」
下の子ちゃんのことを話すと、上の子ちゃんは下の子ちゃんの成長ぶりに驚いたようだった。
「下の子ちゃん、すごいねえ!」
まさに、心の底から下の子ちゃんを称賛する。
というのは、上の子ちゃんはまだ、夜用のオムツが外れていない。
時々だけれど、夜間にしてしまうことがある。
いつも、上の子ちゃんの背中を追いかけている下の子ちゃん。
上の子ちゃんに褒められて、とっても嬉しかったようだ。
「もう、ずっと、(おむつにしないで)朝にトイレへ行っているもんね」と、得意げな顔で言う。
いやいや、まだここ最近のことだよ。
心の中で密かに突っ込む。
すると、下の子ちゃん。
何やら思いついたようだ。
「ねえ、上の子ちゃん」と話しかける。
「朝にトイレに行けないと、先生に怒られるんだよ」
「えっ」
上の子ちゃんは一瞬、戸惑う。
そして、「だ、大丈夫だもん」と、しどろもどろに返す。
けれど、今までオムツのことを言われ続けてきた下の子ちゃん。
実は、ずっと根に持っていたようだ。
「朝にトイレに行けないと、先生に怒られるんだよ」
同じ言葉を、もう一度繰り返す。
追い詰められた上の子ちゃんは、プツンと切れて「もう、下の子ちゃんとは遊んであげないから」と大きな声で叫んだ。
ここで、旦那さんが仲裁に入る。
皆、朝は一番忙しい。
悠長に、喧嘩している時間なんてない。
それが、つい先日のこと。
夜中、下の子ちゃんの泣き声で目を覚ます。
最初は暑いのかと思い、身体に掛かっている上布団を取った。
けれど、泣き止まない。
夢の中でうなされているのだろうか。
下の子ちゃんは私や旦那さんに叱られると、夜中に泣いてしまうことがある。
ただ、振り返ってみても心当たりはない。
背中をとんとんと軽く叩いてみたり、手を握ったりする。
どうやら、違うようだ。
「お茶飲む?」と聞いてみるが、これにも反応なし。
どうしたのだろう。
もう、選択肢がない。
しばらくすると、一旦泣き止んだ。
けれど、また、泣き出す。
どうしたものかな。
為す術なく見守っていたら、突然、下の子ちゃんがすくっと立ち上がった。
「ママ、トイレ」
「えっ」
初めての出来事に、思わず、声が出る。
「わ、わかった。一緒に行こうか」
ただ、トイレまで付き添うだけなのに、なぜか動揺している。
下の子ちゃんはトイレで用をすますと、布団に戻り、すぐ眠ってしまった。
私はしばらく呆気にとられ、それから、キッチンへ水を飲みに行く。
キッチンには、ちょうど、お風呂上がりの旦那さんがいて、私は旦那さんに今あったことを話した。
「下の子ちゃんが、今、起きて、トイレに行ったのよ」
旦那さんが「そっか」と相づちを打つ。
「今まで、上の子ちゃんが夜中、トイレに行きたくて起きるってことがなかったから、驚いちゃった」
そうなのだ。
上の子ちゃんも下の子ちゃんも、時々、夜中にオムツが濡れると替えて欲しくて泣くことはあった。
けれど、トイレに行きたくて子供ちゃんが泣くのは初めてのことだった。
「なんか、すごいな・・・」
眠りが浅いとか深いとか。
その子の体質みたいなものもあると思うけれど。
下の子ちゃんがトイレに行くようになったのは、つい最近のことで、夜中にしなくなってきただけでもすごいと思っていたのに。
もう、そんなこともできてしまうのと、驚きを隠せない。
生まれ月や第一子・第二子という違いもあると思うけれど。
ただ、上の子ちゃんはどちらかと言うと、成長がゆっくりな気がする。
もちろん、その子その子のペースはあるし、周りの成長に合わせなければならないというわけではない。
だた、幼稚園に入り、同じ年齢の子たちが集まると、やはり、見えてきてしまうものはある。
食事のこと、トイレのこと、体調のこと・・・etc。
その度に、どうしようか悩んで、試行錯誤して、うまくいかなくて。
そんな日々を幾度も繰り返していたら、ある日、今までの苦悩は何だったんだと拍子抜けしてしまうほどに、急にできるようになるのだ。
だから、上の子ちゃんの成長ぶりは、どちらかと言うと、『ようやくできるようになったなあ』みたいな、感慨深いものが常にあるのだけれど、下の子ちゃんの成長ぶりは、あまり手が掛からずに、しかもこちらが思っているよりも早く出来てしまうので、ただ『すごい』と驚いてしまう。
旦那さんにそう感想を漏らすと、旦那さんが「まあ、下の子ちゃんは人生何周目かの子だから」と言った。
「そうだね」と私も返す。
うちの夫婦間では、もはや、これが確定事項みたいになっている。
今回のことは生理現象だし、『上の子ちゃんもすぐできるようにならなければ』とは思っていない。
ただ、日々の中で何となく分かってはいたけれど、子供の成長速度はやっぱり違うのだなあ、と改めて思い知らされた出来事だった。