悩めるママの子育て徒然日記

30代主婦 三児の母 趣味は料理、散歩、読書 旦那さんからは『悩むことが趣味』と言われている

奇襲

 それは、突然やってくる。

 朝、掃除機をかけていたら、私の数歩先にぽとりと何かが落ちてきた。

 思わず、後ずさる。

 目の前に落ちてきたそれは、そのまま床でばたばたとうごめいている。

 目を凝らして見てみると、蛾だった。

 しかも、そこそこ大きい。

 何故、よりによって目の前に落ちてきたのだろう。

 というより、今まで一体、どこにいたのだ?

 蛾は飛び立つことなく、ばたばたと羽を動かし、そして、少しずつ動かなくなっていく。

 もしかして、弱って落ちてきたのだろうか。

 それにしても、これをどうするか、だ。

 出来れば、近づきたくない。

 幸い、家にはまだ、幼稚園のバス待ちの下の子ちゃんが居たから、お願いしてみる。

「ねえ、下の子ちゃん。このカップをあそこにいる蛾に被せてきてくれない?」

 下の子ちゃんはカップを受けとると、躊躇うことなく蛾の傍に駆け寄っていった。

 そんな我が子を、頼もしく思う。

 下の子ちゃんは、ほんのすこしの間、蛾を眺める。

 そして、あろうことか、くるりと背を向けて、こちらに戻ってきたのだ。

「下の子ちゃん、カップを置いてきてよ」

 下の子ちゃんは、首を横に振る。

「ムリだよ。だって、あの蛾、生きてるもん」

 私の頭の中に『?』が沢山浮かぶ。

 いや、待て。あなた、生きてる青虫さん、手で摘んでますよね…。

 いくらお願いしても、断固として拒否する下の子ちゃん。

 このままだと埒外が明かないので、仕方なく、カップを被せに行く。

 小さなことだけれど、こういう時、親って辛いなって思う。

 恐る恐るカップを被せ、下から紙を差し込む。

 そのまま全部を落とさないように持って、玄関まで走っていく。

 もう、心臓はドキドキだ。

 そして、玄関の鍵を開けると、外へポイッと投げる。

 終了。

 しばらくしたら、カップと紙を回収する。


 幼稚園バスがくる時間になって、外に出る。

 どうやら蛾は、力尽きたようだ。

 下の子ちゃんが、「さっきの蛾だ」と言いながら、近づいていく。

 そして、「ママ、死んでるよ」と言うと、すっと蛾に向かって手を伸ばした。

「やめてっ」

 慌てて、下の子ちゃんの手を止める。

 本当に、あなた、死んでるのは触れるのね…。

 なんとも、複雑な心地になってしまった。


 そして、ある朝のこと。

 いつものように、旦那さんのお弁当を作っていた。

 その日のお弁当作りも、いよいよ大詰めを迎え、最後のおかず、キンピラゴボウを作っているときだった。

 フライパンでゴボウを炒めていたら、袖口に何かが付いていることに気付く。

 ああ、ゴボウか。

 けれど、そのゴボウの切れ端は、なにやらうごめいているのだ。

 一瞬、目を疑う。

 そして、それが何か気づいたときには、もう、言葉にならない叫び声をあげていたのである。

「旦那さん、助けて、助けて」

 いつもより、何オクターブも高い声をあげながら、寝室へ向かう。

 旦那さんが、「どうしたんだ」と、眠たげに目を擦りつつ寝室から出てくる。

「これ、これ、これ!」

 旦那さんの眼前に、腕を突き出す。

 旦那さんは一目それを見るなり、急いでティッシュペーパーを一枚持ってきて、それをそっと摘んだ。

「一体、何事かと思った」

 旦那さんがため息をつく。

 私は申し訳なくて、「ごめん」と謝る。

 でも、しょうがない。

 明らかに、私の許容範囲を越えていたのだから。

 私の袖口に乗っていたのは、白色のスリムだけれどそこそこ大きめな芋虫さんだった。

 なぜ、袖口にいたの?いつから、乗ってたの?どこから、来たの?

 聞きたいことだらけだけれど、とにかく目の前から消えてくれて助かった。


 その日の朝食時。

 子供ちゃん達にその話をしたら、「ああ。だから、ママ、あんな声出していたのね」と、上の子ちゃんに言われた。

「えっ。でも、起きてこなかったよね」と返すと、「あんなに大きい声出されたら、起きちゃうよ」と笑われる。

 まあ、そうだよね…。

 でも、ママ、久しぶりに、心臓が止まりそうだったわ。


 子供ちゃん達は、虫さんに興味津々だけれど。

 ゴメンね。

 ママは、やっぱり、虫さん、好きになれそうもないです…。