大きなカブ
子供の頃、一度は『大きなカブ』という話を耳にしたことがある方もいらっしゃるのではないだろうか。
かくいう私も、子供の頃、『大きなカブ』という話を何度か読んだことがある。
おぼろげだけれど、劇で役を演じた覚えもある。
その時は多分、孫娘の役だった。
時々、『大きなカブ』の主役はなんなのだろうと考える。
最初に登場する『おじいさん』?
そんなことを考えるようになったのは、私の妹が『大きなカブ』を学芸会でやることになったときだ。
妹の役はなんと、『大きなカブ』だった。
それを聞いた時、思わず、尋ねた。
「カブってセリフあるの?」
ちゃんとあるらしい。
しかも、最初から最後までずっと舞台の上に登場している。
「そうか。すごいね・・・」
題名にもなっているし、ある意味、主役な気がする。
なのに、なんとも釈然としなかった記憶がある。
上の子ちゃんは小学校に通っている。
そして、毎日、学校から宿題が出される。
その一つが、音読だ。
いつやるのか、決めてはいないけれど、ちょっとした合間に披露してくれる。
「うんとこしょ。どっこいしょ」
例の『大きなカブ』である。
それぞれの配役に合わせて声を替え、心を込めて読んでいるから感心する。
「上手だねえ」と声を掛けると、「私、下手なんだ」と上の子ちゃんがしょんぼりとした声で言う。
どうやら、学校の授業で『大きなカブ』の劇をすることになったらしい。
しかも、配役は、上の子ちゃんが学校を休んだ時に決めていて、上の子ちゃんは『おばあさん』役なのだそうだ。
セリフは「うんとこしょ。どっこいしょ」のみだ。
ところが、いざ、やってみると、恥ずかしくて声が出せない。
三回目になって、ようやく言えたというのだ。
うーん。それは下手と言うのだろうか。
「下手と言うより、みんなの前で読むことに慣れていないだけじゃない?ママが聞いている限り、上の子ちゃんは大きな声でしっかり読めているよ」
そう言うと、上の子ちゃんは「そうかな」と自信なさげに答える。
「うん。ちゃんと大きな声で読めば大丈夫よ」
私が太鼓判を押すと、上の子ちゃんは「わかった!今度は大きな声で頑張ってみる」と答える。
いつも、ちょっとだけ自信のない上の子ちゃん。
負けるな!頑張れ!と思う。
そして、上の子ちゃんの音読を毎日のように聞いている下の子ちゃん。
時々、上の子ちゃんが音読をしている傍で、楽しそうにセリフを言ったりしている。
我が家では、今、お風呂はひとりひとり入れているのだけれど、下の子ちゃんはお風呂に漬かっている時、よく、『大きなカブ』を大きな声で暗唱している。
「おじいさんがカブを引っ張りました。『うんとこしょ。どっこいしょ』それでも、カブは抜けません。おじいさんはおばあさんを呼んできて・・・」
生き生きとしていて、つい、耳をすませて聞いてしまう。
そして、そうやって聞いていると、実に上の子ちゃんの影響はすごいなあと思う。
いつの間にか、大まかではあるけれど、物語を一つ暗唱することができているのだ。
それは、今回のことに限ったことではない。
例えば、お絵かきだったり、字を書くことだったり。
色々なことの習得が、とにかく下の子ちゃんは早いのだ。
私はそれをよく、「すごいねえ」と褒めていたのだけれど。
最近は、そこに、もう一言添える。
「やっぱり、上の子ちゃんのおかげだねえ。上の子ちゃんが上手にできるから」
そう言うと、上の子ちゃんは嬉しそうに笑う。
そして、時々、「だって、私が教えてあげてるから」と得意げに言う。
本当に、そうだなあ、と思う。
上の子ちゃんの面倒見の良さも、下の子ちゃんの習得の速さに一役買っているのだ。
親が教えなくても、子供同士で高め合っていく。
子供ちゃん達の関係を見ていると、兄弟っていいなあと、つくづく思わされる。
上の子ちゃんの音読が、『大きなカブ』から『おむすびころりん』に変わる。
「おむすびころりん、すっとんとん。おむずびころりん、すっとんとん」
上の子ちゃんが、可愛らしい声色で読む。
その横には、ちゃんと下の子ちゃんが控えていて。
「おむすびころりん、すっとんとん。おむずびころりん、すっとんとん」
そのうち、我が家のお風呂場でも可愛らしいセリフが聞こえてくる日が来るかもしれない。
そんな日を心待ちにしている私がいる。