花めぐり
朝、下の子ちゃんと散歩へ出かけた。外はもうすっかりと温かくなっていて、風が吹いていても寒くない。公園につくと、近くで「ホーホケ」と可愛らしい声が聞こえてきた。
「うん?」
聞き違いだったかと思い、よく耳をすませてみる。
「ホーホキョ」
小鳥たちのさえずりの中に鶯らしき声が混じっている。
「ホーホキョキョ」
きっと鳴く練習をしているのだろう。
「ねえねえ」
砂場で遊ぶ下の子ちゃんに声を掛ける。
「鶯さんがホーホケキョって鳴く練習してるよ。聞いてごらん」
下の子ちゃんが手を止めて、耳をすませる。
「本当だ。ピヨピヨって鳴いてる」
どうやら違う鳥の声を拾ってしまっているようだ。
「鶯さんは緑色でね」
せっかくだから、鶯について少し説明してみるが、反応なし。姿が見られたら違うかなと周りを見回してみたが、それらしい鳥は見当たらない。残念。でも、こうして、少しずつ春の訪れが感じられるのはいいなあと思う。
公園の帰り道、よその家に植わっている花たちを見て回る。色とりどりの花々に、下の子ちゃんも足が進んでいく。
「これはなに?」
「パンジー」
「これは?」
「葉ボタン」
下の子ちゃんの『これは何?』攻撃が始まる。勿論、私もそれほど草花に詳しくないので、名前の分からない植物の方が多い。そのうち、「なんだろうねえ」と答えることが増えてくる。そうなると、最初は嬉々として聞いてきた下の子ちゃんの顔もだんだん曇ってゆく。それなら。
「ママも名前がわからないから、下の子ちゃん、名前付けてみてよ」
下の子ちゃんの顔がぱっと輝く。
「これは、何にしようか?」
私は近くに咲いていた白い花を指さす。
「はなな!」
「かわいい名前だね。これは?」
「えーと。グレース」
花に名前をつけながら歩いていると、あっという間に家の前にたどり着いた。
「いっぱいお花あったね」
下の子ちゃんが満足げな顔で私を見る。
「そうだね。また、いっぱいお花探そうね」
冬が終わりまた春がやって来た。一つ季節が去るたびに、子供達も一段と大きくなっていく。あなたはこれから、どんな成長をみせてくれるかな。下の子ちゃんの小さな背中を見つめながら、そんなことを思った。