悩めるママの子育て徒然日記

30代主婦 三児の母 趣味は料理、散歩、読書 旦那さんからは『悩むことが趣味』と言われている

オムツを外す時

 下の子ちゃんは最近、トイレに行くようになった。

 昨年の夏には自分から行くようになっていたのだけれど、段々寒くなってきて、冬になった途端、ぱたりと行かなくなってしまった。

 理由は、「寒いのが嫌」だから。

 まあ、分からなくもない。

 別段、トイレを怖がっているわけでもないし、また、暖かくなったら行くだろうとしばらく静観していた。

 そして、ここ一か月くらい。

 毎回、「トイレに行ってきます!」と元気に宣言しては、自らトイレへ向かうようになった。

 しかも、自分で便座なり台なりを用意してくれるから(手伝おうとすると、むしろ、トイレには入ってこないでと言われる)、私はただ、トイレの灯をつければいいだけ。

 なんとも、手のかからない子に育ってくれて、ありがたい限りだ。

 こんなにもうまくいくのは、おそらく、上の子ちゃんのおかげだろう。

 下の子ちゃんは上の子ちゃんが大好きだ。

 だから、上の子ちゃんのやることを、いつも興味深々に観察して、真似しようとする。

 上の子ちゃんがトイレに入っている時だって、何をしているか、扉の隙間からじっと覗いているわけで(上の子ちゃんはすごく嫌がっていたけれど)、どうすればいいのかなんとなく分かってくるし、いずれ、自分もそうしなければならないであろうということを、自然に覚えてゆくのだ。

 そういう意味で、下の子は育てやすいなあと思う。

 

 では、上の子ちゃんの時はというと、それはそれは、なかなかに大変であった。

 上の子ちゃんは、小さな頃、大きな音が苦手な子だった。

 掃除機をかければ一目散に逃げていくし、洗濯機が動いている間は、傍にある洗面台にも近づかない。

 

 ある日、上の子ちゃんと一緒にショッピングモールに行った時のこと。

私はトイレに行きたくなった。

 もちろん、上の子ちゃんを外で待たせるのは怖いから、一緒に個室に入ってもらった。

 一応、トイレに行くことは事前に伝えてあったが、上の子ちゃんは初めての個室に少し不安気味だった。

 用を足す前に、いつもの習慣で水の流れる音のボタンを押した。

 ザーッと大きな水音が流れた瞬間、上の子ちゃんはパニックになった。

「だれか、だれか、助けて!ここから出して!」

 扉をあらん限りの力で、どんどんと叩く。

 これ、なにか誤解を招きやしないだろうか・・・。

 私は冷や汗をかきながら、外にも聞こえるように大きな声で、「ちょっと待って。ママ、もう少しで終わるから」と、上の子ちゃんをなだめにかかる。

 けれど、上の子ちゃんの耳には届かない。

 仕方ないので、急いで用を済ませ、トイレのレバーを回す。

 ジャー!!

 今度は本当に、しかも大きな音を立てて水が流れてくるわけで、恐怖に耐えられなくなった上の子ちゃんは「ギャー」と叫んで泣き出す。

 私はどうしようもなくなって、トイレの扉を開ける。

 その途端、今まで見たことのないくらいの猛スピードで上の子ちゃんはトイレを飛び出していき、私は「待ってー」と叫びながら、上の子ちゃんの後を必死に追いかけるはめになったのである。

 それ以来、上の子ちゃんは、一緒にトイレに入ることを断固、拒否するようになった。

 お陰で、上の子ちゃんと二人で出かける時は、家に帰ってくるまでトイレに行くことはできなくなってしまった。

 

 上の子ちゃんの幼稚園では、幸い、入園時にオムツを外していなくても大丈夫と言われていた。

 ただ、できれば外しておいた方がいいのでは、と思っていた私は、入園前からトイレトレーニングを始めていた。

 けれど、案の定、上手くはいかなかった。

 初めてお店のトイレに入ったときのことが、大きなトラウマになってしまっていたのだ。

「トイレに行こう」と言っても、入ってくれない。

 仕方なく、抱き上げて便座の上に乗せようとしても、抵抗する。

 ようやく、便座に座ったと思ったら、すぐさま、飛び降りてくる。

 訳を聴くと、「穴に落ちる」と言うのだ。

「いや、絶対落ちないから、大丈夫」としっかり身体を支えていてあげていても、上の子ちゃんの恐怖心は全く和らがない。

 緊張してしまって、「出ない」と言う。

 そして、トイレから出た後に、オムツの中にする。

 なんとかやる気を出させようと、トイレが出来た日にシールを貼ることにした。

 けれど、いつまでたってもできないから、シールが貼れない。

 やがて、トイレに置かれたシールの上に埃が積もり始める。

 足を乗せる台を、上の子ちゃんの好きなキャラクターのものにしてみた。

 台が宅配便で届いた時はすごく喜んでいたけれど、トイレに置いたら、全く興味を示さなくなった。

 トイレを好きなキャラクターで飾ってみた。

 気になるのか、時々、トイレの扉を開けて眺めているが、なかなか中に入ろうとはしない。

 他のアプローチ方法も考えた。

 オムツをより濡れ感の強いものにしてみた。

 多分、濡れたら気持ち悪いと思うのだけれど、本人はしたことを絶対に言わない。

 そして、そういうオムツは通常のものより吸水力がないから、次第に漏れてきて、ズボンが汚れる。

 さらに、上の子ちゃんは肌が弱いから、濡れたまま放置すると赤くかぶれてしまう。

 全くいいことがない。

 仕方なく、パンツを履かせてみる。

 普通にパンツの中にする。

 床に大きな水たまりができる。

 けれど、上の子ちゃんは「漏れちゃった」と言うだけで、どこ吹く風である。

 本人は全くやる気なし。

 結局、私の独り相撲。

 段々、嫌気がさしてきて、やめてしまったのである。

 

 入園してから一か月後のある日。

 幼稚園の先生から電話が掛かってきた。

 上の子ちゃんのトイレトレーニングのことだった。

 おうちではどうですかという事だったが、当然のことながら、うちでは全く進んでいなかった。

 正直に答えると、幼稚園でもどうやらできてないらしい。

「するタイミングとかってわかりますか」と先生に尋ねられ、私は口ごもる。

 おそらく、トイレに行かされた後から次のトイレに行くまでの間、だ。

 理由は、トイレでしたくないから。

 身もふたもない答え。

 流石に、言うのは憚られる。

 先生も、上の子ちゃんには随分と手を焼いているようだった。

「実は、幼稚園のトイレの扉にはアン〇ンマンのキャラクターが色々貼ってあるんです。それで、上の子ちゃんに、『どのキャラクターのトイレにする?』って聞いたら、『カ〇ーパンマンが大好きだから、カ〇ーパンマンのトイレじゃなきゃ嫌!』って言うんです。でも、どの扉にもカ〇ーパンマンの絵は貼ってなくて・・・」

 その話を聞いて、先生には申し訳ないけれど、『よく、カ〇ーパンマンなんて覚えていたな』と吹き出しそうになる。

 だって、上の子ちゃんは・・・。

「先生、すみません。うちの子、そもそも、アン〇ンマンあんまり見たことないです」

 先生が電話口で絶句する。

 そして、しばらくたってから、「上の子ちゃんなりに、一生懸命トイレに行くのを阻止しようと頑張っているんですね」と感心していた。

 

 その年の秋になっても、上の子ちゃんのオムツが外れることはなかった。

 そして、ついには、クラスでオムツを履いている子は上の子ちゃんだけになってしまった。

 それまでにも、何度がトイレのことについては上の子ちゃんと話し合ってきたけれど、もう一度、上の子ちゃんとしっかりと話し合う必要があるかな、と思った。

「上の子ちゃん、上の子ちゃん、オムツについてなんだけれどさ」

 上の子ちゃんを手招きする。

 上の子ちゃんは「なあに?」と言って、近寄ってくる。

 上の子ちゃんには、一応、上の子ちゃんなりのオムツを外さない理由がある。

 一つは、トイレが怖いから。

 ただ、これについてはもう何回かトイレに入っているので、だいぶ理由としては薄れてきている。

 そして、もう一つは、なぜ、オムツのままではいけないのか納得できないから、だ。

 というのは、例えば遊んでいる時。

 パンツを履いているなら、遊びを中断してトイレに行かなければならない。

 けれど、オムツなら中にして、遊びに切りがついたところで替えてもらえばいいのだ。

 だから、どうして、わざわざ、不便なパンツにしなければならないのか分からないというのだ。
 それはね、と私は答える。

 誰かの手を借りなくても、一人でできるようになるためだよ。

 もし、オムツを替えてくれる人がいなかったら、困るでしょ。

 でも、と上の子ちゃんは言う。

 幼稚園の先生もママもオムツを替えてくれるじゃない。

 実際のところ、そうなのだ。

 というより、替えざる負えない。

 上の子ちゃんは肌が弱いから、放っておくと真っ赤にかぶれて痛みが出てしまう。

 あまりに痛がるから、可哀想になってきて、本人から「替えてくれ」と要請がなくても、定期的に、しているかしていないかの確認をする癖が私にはついてしまっている。

 上の子ちゃんはそのことも承知済みなのだ。

 そして、その先のこと、例えば、「小学校に入ったら、誰も替えてくれないよ」と言ったところで、上の子ちゃんには想像することなどできないのだ。

 でもね。

 私はめげそうになりながら、もう少し説得を試みる。

「もう、みんなオムツを卒業しているんだよ。ひとりだけオムツは恥ずかしくない?」

 正直なところ、私は『みんながやっているから』を理由にするのはあまり好きではない。

 ただ、ひとつだけ懸念していることがあった。

 もし、まだ、オムツが外れていないことをからかわれた時、上の子ちゃんは大丈夫だろうかということだ。

 すると、上の子ちゃんはキッと私の目を睨んだ。

 そして、はっきりとこう言い切った。

「だって、オムツが好きなんだもの。だから、例え、小学生になっても、ずっとずっとオムツを履き続けます!」

 上の子ちゃんのその言葉を聞いた時、なぜだか私は、負けたな、と思った。

 だって、上の子ちゃんは確固たる意思を持ってオムツを履いているわけで、私には、そんな上の子ちゃんの決意を覆せるだけの説得材料を持ち合わせていないのだから。

 どうやら、私が腹をくくらないといけないらしい。

 そう判断した私は上の子ちゃんにこう言った。

「分かった。あなたが納得するまで、オムツを履きなさい」

 

 その後、年中さんに上がった上の子ちゃんは、こちらが拍子抜けしてしまほどあっさりとトイレに行くようになった。

 私は別段、何も働きかけをしていないから、おそらく、幼稚園で仲の良い友達ができて、その影響を受けたのではないかなと思っている。

 ただ、上の子ちゃんはトイレをする時に、わざわざズボンを脱いでからするため、そのことが気になっていた。

 まあ、幼稚園ならいいが、小学校のトイレでもそんなことしたら、さすがに先生が驚いてしまうのではないだろうか。

 幾度かそのことについては触れてみたが、本人は、「汚してしまうから」という理由で、なかなか変えようとしない。

 トイレができるようになったというだけでも、十分な進歩なのだから、あまり口出しして、また、トイレに行くこと自体を嫌がるようになったら困るし。

 うーむ。

 どうしたものかと悩んでいたら、いつのまにか冬になった。

 上の子ちゃんは当たり前のようにトイレに行くようになったものの、いつも下を脱いでしまうから寒そうだった。

 そこで、ぼそっと言ってみる。

「上の子ちゃん。毎回、下を全部脱ぐと寒いでしょ。だから、少しだけズボンを下げてしてみたら?そしたら、温かいんじゃない」

 それ以来、上の子ちゃんはズボンを脱ぐことを止めた。

 きっと、本人の納得がいったのだろうと思っている。

 

 子供の小さい時は特に、だいたい、これくらいの時期に、これくらいのことができるようになっていて。

 なんて、目安はあるけれど、実際のところ、それぞれの成長速度があるわけで、必ずしもその目安通りにはいかないのではないかな、と思う。

 きっとできた方がいいのだとは思うけれど、だからと言って、目くじらを立てて出来るようにさせようとしても、なかなかうまくいかないこともあって、結果、お互いが疲れ果ててしまう。

 だから、そういう時は、まあ、いつかできるようになるかな、くらいの気持ちで、ちょっと肩の力を抜いて、子供ちゃん達の成長のタイミングを待ってあげるのも一つかもしれない。

 そういう私も、最近になって、特に、上の子ちゃんの成長を見て、そう思えるようになってきたのだけれど。

 子育てって、難しいですね。

 でも、そうやって、悩んで、考えて、教えてもらって、子供ちゃん達と一緒に成長してゆける毎日を、大切にしてゆきたいな、と思うのです。