悩めるママの子育て徒然日記

30代主婦 三児の母 趣味は料理、散歩、読書 旦那さんからは『悩むことが趣味』と言われている

親は選べなくても

 私の母は、結婚というものをあまり良く思っていなかった。

 だから、よく、私にこう言った。

「今時、結婚なんてしない方がいいわよ。ちゃんと仕事をしているなら、ひとりで生きていく方がお金も時間も自由に使える。幸い、うちは持ち家だから、あなたは住むところに困らないし、寂しいなら、ボーイフレンドを作ればいい」

 そんな母の元で育った私は、お陰様で、結婚というものにあまり憧れを抱かず育った。

 また、こんなことも言っていた。

「もしも、よ。もしも、結婚したいと思う男性が現れたら、すぐ、その人のお母さんに会いなさい。私は孫の面倒を見る気はないからね。そのお母さんとうまくやっていっていけるかちゃんと見極めるのよ」

 そう言いながら、いざ、孫が出来たら、孫を猫かわいがりするおばあちゃんに変わるっていう話も耳にしたことはあったけれど、私の母は残念ながら、言ったことをそのまま実行する人だ。

 なので、私は、旦那さんと付き合ってすぐ、お母さんに会わせてもらっている。旦那さんとの結婚を決めたのは、もちろん、旦那さんの人柄が大きいけれど、お母さんが良い人だったというのもある。

 結婚して、私はすぐ妊娠し、そして、悪阻が来た。始終、吐き気が治まらず、なかなか食べられない。そこで、母に助けを求めたら、はっきりと言われた。

「悪阻は病気じゃないのよ。私なんて、悪阻を抱えながら、人のお世話までさせられたの。だから、自分でどうにかしなさい」

 取り付く島もない。

 そんな窮地に陥っていた私に手を差し伸べてくれたのは、旦那さんのお母さんだった。旦那さんのお母さんは、悪阻と言うものが一切なかったらしい。なので、妊娠しても、ばりばりと仕事をこなしていたようだ。

 けれど、私が食べられないと知るや、「悪阻って大変なのよね」と心配し、「私は悪阻というものは分からないけれど」と言いながら、口当たりのよさそうなものや、私が食べられるものを色々と作ってくれた。

 一人目の子供を出産した後は、「里帰りしなさい」と母に勧められ実家に里帰りした。けれど、母が「お世話に疲れた」という理由で、当初の予定より早く家に帰された。

 二人目の時は、家に居られるのは大変だから、通いにさせてと言われた。週三回で二か月という約束だったけれど、急に介護が入ったからと一か月で打ち切られた。

 上の子ちゃんが幼稚園に入ってからは風邪続きで、看病に疲れた。上の子ちゃんが風邪を引くと、必ず、下の子ちゃんにも私にもうつる。そして、私たちが治った頃に、また、上の子ちゃんが風邪を引く。ループのように繰り返されるそれに、私は疲れ切っていた。  

 電話口で泣きながら助けを求めた私に母は、「私も身体が弱いから、風邪の時は手伝えないわ」と言い、また、「お互い、迷惑をかけないように生きて行こうね」と釘を刺された。

 結局、助けてくれたのは旦那さんのお母さんだった。私が病院へ行く間には子供たちを預かってくれたし、子供たちの看病で疲れている時は、家に来て子供たちの面倒を見てくれた。

 感謝しても感謝しきれない。

 それでも、私はまだどこかで母に期待している部分があって、でも、それはやっぱりいつも、裏切られてしまうのだけれど。

 ある日、旦那さんのお母さんに、そんなようなことをぽつりと漏らしてしまった。

 そしたら、お母さんが優しくこう言った。

「そんな辛い思いをするくらいなら、離れなさい」

 そうだよな、と思う。できるならそうしたい。でも、私は弱い人間だから、どこかに心の寄る辺を求めてしまう。

 そんなことを考えながら、ふと顔を上げたら、私を見つめるお母さんの顔があった。

 その瞬間、ああ、そうか、と思った。

 私にはお母さんがいるんだった。

 元はと言えば、旦那さんとの結婚でつながっただけの赤の他人。

 でも、いつだって、私に優しく手を差し伸べてくれたのは、お母さんだった。

 もう、母に求めるのはやめよう。

 そう思ったら、ふわりと心が軽くなった。

 

 それ以来、私は母に期待をしなくなり、なるべく付かず離れずの距離感を保とうとしている。

 母は全く私の子供たちに興味がないというわけではないから、気が向けば子供たちの顔を見に遊びにやって来るし、家にも招いてくれる。そして、時々、「今のおじいちゃんおばあちゃんは、お金がない代わりに、保育園に迎えに行ったり、預かったり、労働を求められるのよ。それはそれで、大変だわ」などと言う。うちは、お金ももらってなければ、労働も求めていない。

 以前なら心にざわりとさざ波が立ったが、心が離れた今は軽く受け流すことができる。

 

 よく、親は選べないという。確かにそうだと思う。でも、もう一組の親は選べる。だから、子供達が大きくなったら、こう言おうと思っている。

 「もし、結婚を考えている人がいたら、早めにご両親に会わせてもらいなさい。ご両親ともうまくやっていけそうと思うなら、結婚しなさい」

 唯一、従っておいてよかったと思う母の言葉だ。

 人のことを話しておいて、自分は母親としてできているのか、と問われると、全く自信はないけれど。

 ただ、子供たちが困っている時には、できうる限り手を差し伸べられるような母親にはなりたいと思っている。