夢
「ママが子供の頃、大きくなったら何になりたいって思ってたの」
最近、上の子によく聞かれる。
「そうだねえ」と言いながら、その後の言葉に詰まる。確か、「お医者さん」と答えていたはずだ。でも、それは、自分の夢というよりも親の意向が強かった気がする。
「・・・お医者さんかな」
何も言わないのはいけない気がして答えてみると、「なんで?」と聞かれてしまった。
「病気の人を助けたかったから」
なんとも白々しい答えを言ってしまった自分に、嫌気がさす。
反対に「上の子ちゃんは何になりたいの?」と聞いてみると、「お花屋さんに、アイドルに、それから・・・」
目をキラキラさせながら、なりたい職業が出てくるわ、出てくるわ。その姿が羨ましくもあり、微笑ましい。
こういう一件があって、その夜、私は旦那さんにぽつりと零してしまった。
「私、子供の頃、なにになりたかったんだろう」
親の顔色ばかり窺って、必死に親の望みに応えようとしていた子供時代。旦那さんには色々と話しているから、その辺の事情は分かってくれている。
「過去のことを言ってもしょうがないし、今から探せばいいんじゃない」
この年にもなって!とも思ってしまうが、旦那さんからすれば、私はまだまだ若いらしい。
「そうだねえ」
ぼんやりと思い出すのは、学生時代、家でハーブや料理の本を読んでいた時に、果実酒とかお味噌とか、自然の中で四季折々の食材を使って色々なものを作ってみたいなあと思ったことくらいか。あとは、子供が出来たら、一緒に料理を楽しめたらいいなとか。
それを旦那さんに話してみたら、「そもそも、そういう田舎暮らしをしたいなら、車に乗れなきゃだめだよ」と一笑された。
「確かに!」
私はペーパードライバーだ。しかも、旦那さんと一緒に住む場所を探す時の条件は『車がなくても生きていける所』だった。
「それに、今の話がやりたいことなら、結構、実現しているんじゃない」
自分の日常を思い起こしてみる。子供と一日べったり過ごせるから、時々、お団子とかパンケーキとか、一緒に簡単なおやつを作る。料理は、旦那さんのおかあさんが家庭菜園をやっているから、季節折々の野菜や果物を分けてもらえる。スーパーで手に入らない食材は旦那さんがネットで購入してくれる。
「そうだよねえ」
叶っている気がする。それなのに、釈然としないのは・・・。
自分が仕事をしていないからだ。
私の友人の多くは、資格を持っていたり、大企業に勤めていたり、ばりばりと働いている人が多い。その姿を見ていると、羨ましくて、自分がなんとも情けないような気がしてしまう。
「じゃあ」と旦那さんが聞く。
「君は、何か資格が欲しかったり、仕事をばりばり頑張りたいの?」
あらためて聞かれると、なんだか違う気がして首を横に振る。
それなら、私はどうしたいのだろう・・・。
自分の心に耳をすませる。
子供の傍に居たい。
毎日、家族の食事を作りたい。
家のこともそれなりにやりたい。
それから・・・。
小さくてもいい。何か生きがいになる様な仕事がしたい!
「見つかるかな・・・」
そんな都合のいい仕事、簡単に見つかるとは到底思えなくて、ぽろりと弱音が零れ落ちる。
「まだ先は長いんだから、ゆっくり見つけていけばいいんじゃない」
旦那さんの言葉がそっと私の背中を押す。
「そうだねえ」
旦那さんの優しさに救われながら、いつか娘に胸を張って答えられたらいいなと思った。