悩めるママの子育て徒然日記

30代主婦 三児の母 趣味は料理、散歩、読書 旦那さんからは『悩むことが趣味』と言われている

すごい偶然

 私には、もうかれこれ三十年来の付き合いになる友人がいる。本当に小さな頃からの付き合いだ。進学先が異なっても、細々ながらそれは続き、やがて私たちは社会人になった。

 社会人になると、時々、仕事終わりに喫茶へ行き、おしゃべりをした。お互い、浮ついた話は全くなく、話題に上るのは仕事のことや趣味のことばかり。でも、彼女と一緒に過ごす時間は楽しくて、いつも閉店間際まで夢中でしゃべり続けていた。

 ある夜のことである。私は彼女といつもの喫茶店で他愛ない話をしていた。そして、ふと何かの拍子に、結婚の話になった。

 その当時、私は結婚について全くと言っていいほど何も考えていなかった。いや、そもそも、男性とお付きしたことすらなかった。そして、彼女も当然、私と一緒だと思っていた。彼女の口から今まで、そのような類の話は一度も聞いたことがなかったから。

「結婚とかって考えてる?」

彼女にそう聞かれ、私は「全然」と答えた。そして、条件反射のように「あなたは?」と返した。当然、否定の言葉が返ってくると思っていた。

「考えてるよ」

 一瞬、言葉に詰まる。まさか、そんな、と私は動揺を隠せない。紅茶を飲もうと思ってティーカップを持ち上げた手は、宙で止まり、ぶるぶると小刻みに震えている。

「そ、そう」

 平静さを装って相づちを打つ私に、彼女はさらに追い打ちをかける。

「どこに住みたいとか、子供が何人欲しいとか、色々」

 もうだめだった。手の震えが大きくなる。慌てて唇でカップの縁を抑えたものの、うまく止めることはできなくて、あふれ出した紅茶がぽたりぽたりとテーブルの上に滴る。

「どうしたの?」

 私の様子がおかしいことに気付いた彼女が、怪訝そうな顔をして尋ねてくる。

「ごめん。こんなにも自分が動揺するとは思わなかった」

 私が白状すると、彼女は私を安心させるように「まだ、ぼんやりとだし、そもそもお付き合いしている人はいないよ」と言って、それから、けらけらと笑った。

 ただ、その話の流れだったと思う。まだ、結婚すら考えていない私に、彼女が言ったのだ。

「もし、お互い子供ができたら、私たちみたいに同級生になれるといいね」

 

 縁あって、今の旦那さんと出逢い、私は結婚した。彼女も少し後に結婚した。私はすぐに子供を授かり、子育てにまい進し、彼女は旦那さんと夫婦水入らずの生活を楽しんでいた。

 

 私が下の子ちゃんを授かり、しばらくたった頃のこと。彼女から久しぶりにメールが来た。彼女とは結婚を機にどちらも実家を離れたため、ずっと会っていなかった。

 一体どうしたのだろう。

 中を開けて読んでみる。すると、妊娠報告だった。

 これはちょうどいい、思った。

 その頃、私は旦那さんと話し合って、部屋に溜まっている赤ちゃん用品を処分しようとしていた。

 けれど、処分するにはお金がかかるし、まだ十分に使えるものもあった。

 そこで、早速、彼女に欲しいものはないか聞いた。そして、彼女が欲しいと言ってくれたものを渡した。

 彼女は喜んでいた。けれど、同時に少し残念がっていた。

「同級生になれるといいね」

 あの時の言葉を、彼女は忘れていなかったのだ。

 

 やがて、彼女は出産し、お母さんになった。

 私があげたものが大活躍していると、メールで教えてくれた。

 

 しばらくして、私は妊娠した。まさかの第三子だった。あまりにも驚きすぎて、しばらく現実を受け止められなかった。

 地獄の悪阻が終わり、安定期に入った頃、私は親しい人達に妊娠したことを報告した。ただ、彼女には伝えるべきか悩んだ。赤ちゃん用品を渡した手前、なんだか、気まずくなる気がしたのだ。

 そんなある日、彼女からメールが来た。

 なんだろう。

 中身を読んで、驚いた。

 なんと、妊娠報告だった。

 まさかな、と思いつつ、『何月?』と送った。

 そして、返信を見て、笑ってしまった。

 同じ月だったのである。

 まさかの同級生、しかも同じ月!

 なんとも不思議な巡りあわせだ。

 私は観念した。

 実は、私も、と送った。

 彼女も驚いていた。

 実は、彼女はなかなか子供ができなかったらしい。だから、第二子は諦めていたのだと教えてくれた。

 勿論、私もできるとは思っていなかったから、本当にまさかの出来事だった。

 互いに、しみじみとした気持ちになり、『あの時の言葉がこんな形で実現するなんて』などとメールを送り合った。

 

 彼女とは年賀状などのやり取りだけで、もう何年も会っていない。

 だから、その分、彼女には話したいことが山ほどある。

 この夏、互いに無事、出産を終えることができたなら、あの頃と同じように、喫茶店で甘いお菓子をつつきながら、思う存分語らえたらいいな、と思う。