食欲不振
新生活が始まってからしばらくして、子供ちゃん達は驚くほどよく食べるようになった。
学校や幼稚園で、よく体を動かしてくるようになったからかもしれない。
いい兆候だな、と見守っていたら、今月に入り程なくして、下の子ちゃんが急に食べなくなった。
なんと、胃腸風邪である。
夕飯をほとんど食べなかった次の日、ズルリと鼻水が出てきた。
ああ、いつもの風邪だ。しばらく鼻水との格闘だ、なんて思っていたら、鼻水はその次の日には止まった。
軽い風邪だったのか、と、ほっと一安心したのもつかの間。
今度は、全く食事を食べなくなった。
しかも、ぐったりと始終、横たわっている。
そのうち、熱も出てきて、ますます心配になってくる。
お昼頃にお腹が空いたと言うので食べさせたら、途中で吐いた。
この時点で、もしかして、と、胃腸風邪を疑う。
今まで、子供ちゃん達はどちらも胃腸風邪にかかったことはなかった。
こういうときって、消化のよいものを食べさせればよいのかしら…?
気を利かせて、下の子ちゃんに聞いてみる。
「下の子ちゃん、お粥作ろうか?」
提案したら、ギャン泣きされた。
私の作るお粥、そんなにまずいかな…。
なにが食べられるのか、よく分からない。
本人に食べたいものを聞いてみる。
胡瓜味噌、ハンバーグ、卵サラダ、フリカケお握り…
いや、本当に食べられるの?と疑いたくなるものもあるけれど、とりあえず、お夕飯にご所望のものを用意する。
そして、案の定、ほとんど残す。
まあ、そうだよね、と思うものの、あまりのぐったり具合に心配になる。
次の日に、病院へ行った。
思っていたとおり、胃腸風邪。
最近、流行っているらしい。
吐き気止めの薬と腸内を整える薬をもらう。
胃腸風邪は、とにかく菌が外に出るのを待つしかない。
ゼリーなら食べられそうということで、食べさせてみるがやっぱり戻してしまった。
それでも、ちょこちょこと頑張って食べている。
そして、一日中、寝ている。
下の子ちゃんのそういう姿を見ることはあまりないから、どうも落ち着かない。
寝ている間に、何度か傍によって生存確認をしてしまう。
三日目には元気になって、こちらがうんざりしてしまうほど部屋の中で遊び回っていたし、食欲もだいぶ回復してきた。
なので、明日には幼稚園へまた行けるね、と話していた。
けれど、四日目の午前中、またグッタリと寝込んでしまう。
そして、お昼過ぎに目を覚まし、「幼稚園へ行く」と言い出す。
流石にその調子で行かせるのは心配だったので、「明日、元気だったらね」と言ったら、大泣きしてしまった。
よほど、幼稚園へ行きたかったようだ。
気分転換に公園へ連れていくも、まだ本調子ではないらしい。
少ししたら、自分から「もう帰る」と言った。
その後は、少しずつ元気を取り戻し、お夕飯もそこそこ食べられた。
そして、五日目。
「おはよう」と声をかけると、パチリと目を覚ました。
目の輝き方が違う。
お布団からスクリと立ち上がり、お着替えの服を持ってくる。
「今日は行けそうですね」と言うと、力強くコクリと頷く。
下の子ちゃん、完全回復である。
よかった、よかったと思っていたら、今度は上の子ちゃん。
お夕飯をほとんど残してしまった。
お腹がいっぱいで、食べられないという。
熱もなく、お腹が痛かったり、気持ち悪かったりするわけでもないらしい。
どうやら、夏バテのようである。
次の日の朝も、食べられないと言って、少し残す。
念の為、連絡帳に夏バテ気味だということを書いておいたら、案の定、下校時に先生に伴われて帰ってきた。
付き添って下さった先生曰く、足が痛いとか、暑いとか、体がだるいとか…。
ぶつぶつ文句を言いながら、半泣きで帰ってきたようだ。
上の子ちゃんの担いでいたランドセルを持ってみる。
ずしりと重たい。
上の子ちゃんはもともと、体力があまりない。
それが、暑い中、これだけ重いものを毎日担いで帰ってきているのだ。
疲れも相当溜まってきているのだろう。
家に帰ってから、上の子ちゃんはずっと寝ていた。
そして、お夕飯はほとんど食べられず、夜は「眠い」と言って、すぐ眠ってしまった。
次の日。
上の子ちゃんは、ついに、起き上がれなくなった。
幼稚園の頃も、毎月1、2回そういうことがあった。
疲れがピークに達するとずっと、眠り続けてしまうのだ。
その間は、何をしようとも、絶対に起きない。
小学校に入ったら、重いランドセルを背負って、しかも、歩いて通わなければならない。
だから、もっと、頻繁にこういうことが起きるのではと心配はしていた。
なので、むしろ、6月までよく頑張ったな、と思う。
しっかり眠って、お昼頃、ようやく目を覚ます。
「何なら食べられそうか」と聞いたら、「助六がいい」と言う。
一緒にスーパーへ行き、食べられそうな物を買いに行く。
お昼はそこそこ食べて、疲れたのか、また、眠ってしまう。
そして、お夕飯。
元気なときに食べていた量の、三分の一くらいしか食べられなかった。
次の日。
朝から暑くて、ついにクーラーをつける。
私はクーラーをつけると喉を痛めやすくなるから、本当はつけたくなかったのだけれど。
でも、そのお陰か、その日のお夕飯はほとんどご飯を食べられるようになった。
そういえば、上の子ちゃんは「暑いのも嫌。寒いのも嫌。ちょうどいい温度じゃないと生きていけないの」なんて、よく公言していたっけ。
親としては、もうちょっと、逞しく生きてくれなんて思ってしまうのだけれど。
旦那さん曰く、「上の子ちゃんは前世、高貴の出なのだろう」と。
色々と思い当たる節がありすぎて、納得してしまう。
それにしても、今年はクーラーをつけるのが早かったな、と思う。
そして、上の子ちゃんの夏バテは、クーラーのスイッチ一つで解決したか、と拍子抜けする。
さてさて、これで子供ちゃん達の食欲は戻ったわけだけれど。
今度は私の食欲不振だ。
原因は胃腸風邪でも、夏バテでもない。
お腹の子が大きくなったことによるものだ。
お目覚めのときは、始終、お腹の中で好き勝手に暴れてくれる我が子。
ご飯を食べているときなんて、これでもか、というくらい、胃袋を蹴ってくる。
お陰で、気持ち悪くて、あまり食べられない。
君のためにも食べてるのだから、せめて食事中だけは少しおとなしくしてよ、と思ってしまう。
この時期になると、体が辛くなってきて、早く生まれてほしいなと思う。
そして、産後、三ヶ月くらいの夜泣きが大変な時期は、もう一度お腹に戻せたらいいのに、なんて思うのだ。
ゆらゆらと、まるで天秤のように揺れ動く心内。
子供ちゃん達二人をそれぞれ妊娠していたときを思いだし、懐かしいな、と思う。
それにしても、私の食欲不振はこれから、出産するまで続くわけで…。
今は、やっぱり、早く生みたいな、と思ってしまうのであった。